「もっと物事に集中したい」
「効率的に仕事を進めたい」
常に集中力を高めて日常生活を送れたらいいですよね。
集中力を高めるために、血流を良くする生活習慣を取り入れることが重要です。
「集中力」とは、一つの事柄に注意を集中して物事に取り組む能力のことをいいます。集中するためには、脳にしっかりと栄養と酸素を届けることが必要です。
そのための生活習慣のポイントを解説していきます。
目次
・まとめ
集中力とは何か?
集中力とはある物事に気持ちや注意を集中させる力のことをいいます。
集中力と血流には密接な関係があります。心臓から流れる血液のうち、約20%が脳に流れています。そして、全身で消費される酸素および栄養素のうち、約20%が脳で消費されています。これらのことはもちろん生命維持にとって脳が重要なことを意味しますが、集中力などの脳機能を維持するためにも血流を良くすることはとても重要です。
ここで集中力と血流の関係性について1つ事例をご紹介します。
昼食後に眠気に襲われて、集中して仕事や学習を行えなかった経験はありませんか?
これは一般的に、食後は消化と吸収を行うために胃や腸に血流が増加するため、脳への血流が減少することが原因だと言われています1)。
また、食後の30分以下の昼寝やうたた寝(積極的仮眠「パワーナップ(昼寝)」とも言われます)を積極的に取り入れ、午後の生産性向上を図る企業や組織もあります。このいわゆるうたた寝は、昼食後の胃や腸への血流増加を抑制し、脳への血流を維持する可能性があると報告されています2)。
このように、脳への血流を意識することは集中力を高める近道だと言えます。
なぜ集中力が低下するのか?
集中力が落ちる生活習慣をご紹介します。
大きく分けると、
①環境要因
②身体的要因
があります。
まず、環境要因についてです。
そもそも、身の回りに集中を妨げるものがあると集中力は続きません。デスクなどの作業場所が散らかっている、スマートフォンやタブレット等のSNSの通知を常時オンにしているなどが上げられます。
また、机や椅子が自分に合っておらず、姿勢不良な状態で作業を続けてしまうのも集中力を妨げる要因となります。
次に、身体的要因をご紹介します。
①疲労
寝不足やストレス過多により疲労した状態になると、集中力が低下します。慢性的な寝不足により脳の働きが鈍くなります。また、ストレス過多の状態になると、神経系・免疫系・内分泌系の連携が崩れ心身の不調をきたします。
②乱れた食生活
私たちの体は私たちが食べたものでできています。栄養のバランスが崩れた時や、朝食の欠食などは集中力低下を招きます。例えば、たんぱく質不足は「疲れる」や「眠れない」などの体の不調に繋がり、集中力の低下がみられることがあります。また、糖質の取り過ぎは、血糖値が不安定になり、集中力の低下につながります。
③運動不足
運動は全身の血流を良くし、頭の働きを高めます。ずっと座りっぱなしの時間が長くなると脳の機能を低下させます。動物実験によると、寝たきりや長期間の固定によって萎縮した筋肉からは認知症発症を早めてしまう物質が見つかっています3)。
集中力を高める生活習慣とは
①良質な睡眠
睡眠は単に体を休息させる行動ではなく、記憶の整理や老廃物の除去等をヒトは睡眠中に積極的に行うことがわかっています。
さらに睡眠中、特に明け方にかけてコルチゾールというホルモンも分泌されます。このコルチゾールは代謝を促進する作用があり、深部体温や血糖値、交感神経の活動を引き上げることにより、覚醒後スムーズに活動できるように準備を整えます。
これらのことから、朝に集中した作業を行いたい方は、前日の入眠を大切にした方が良いといえるでしょう。詳しくは、睡眠コラムへ。
②栄養素
集中力を高めるための栄養素は様々ありますが、今回は2つの栄養素を紹介します。
1.脂質(オメガ3脂肪酸)
オメガ3脂肪酸であるDHA・EPAの不足は、動脈硬化の促進だけでなく、集中力の低下や不安リスクが高まることがわかっています。DHA・EPAは神経保護作用があり、集中力に関わる栄養素です。オメガ3脂肪酸は青魚等に多く含まれています。オメガ3脂肪酸の一種であるαリノレン酸は、DHA・EPAを合成する必須脂肪酸です。
なかなかお魚を食べるのが難しい場合は、普段使用する油は"えごま油"や"アマニ油"などαリノレン酸を含むものがオススメです。また、ナッツにも多く含まれています。
2.食物繊維
近年は食物繊維の研究が進んでいます。食物繊維は雑穀、海藻、きのこ、野菜に多く含まれており、腸内環境維持に関係しています。また、腸と脳は情報のやりとりを常に行っていること(腸脳相関)が注目を浴びています。食物繊維は日本人が不足しがちな栄養素となっています。食物繊維を含む食べ物を摂ることは腸内環境を整え、脳機能を高めます。
③積極的休養(アクティブ・レスト)
アクティブレストとは、積極的に動くことによって血流を良くし、老廃物を効率的に排出させる休養方法です。「安静・休養・睡眠」などのいわゆる消極的休養とは反した休養方法です。
デスクのうえで集中力が続かないときに、少し散歩をしてから作業を行うと生産性が高まったという経験はないでしょうか?
これは歩くなどの軽い運動により、自律神経系である交感神経が活動し始めて、脳が活性化し脳の血流が良くなるからです。この血流によって、長時間にわたり脳を使っていたときに出された老廃物が回収されるのです。また、同じ姿勢を長時間行うと、体の一定部分を圧迫して、その部分の血流が悪くなります。軽い歩行やストレッチをすることにより、血流が良くなり、栄養素を運び、老廃物を回収することになります。従って、集中力が落ちてきたなと思ったら、積極的に体を動かしましょう。
まとめ
誰もが身につけたい集中力。その集中力を高めるためには、血流を良くする日頃の生活習慣がとても重要となります。
頭を使うということは、脳内の細胞が栄養素を欲し、そこには老廃物が溜まりやすくなります。
(頭を)使った後は、しっかりとケア(血流を良くする)を行う。この積み重ねが集中力を高める方法です。
引用)
1) A Ishizaki et al. Influence of breakfast on hemodynamics after lunch – a sonographic evaluation of mesenteric and cervical blood flows. Clinical Physiology and Functional Imaging 39(3):226-229(2019)
2) H Nakao, et al. "Possible effects of short rest after lunch on hemodynamics in the afternoon." European journal of applied physiology 122.2 : 523-530(2022).
3) Tsukasa Nagase, Chihiro Tohda. Skeletal muscle atrophy-induced hemopexin accelerates onset of cognitive impairment in Alzheimer’s disease, Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 12: 2199–2210(2021)
監修者:森下竜一
昭和62年大阪大学医学部卒業。米国スタンフォード大学循環器科研究員・客員講師、大阪大学助教授を経て、平成15年より大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授(現職)。内閣府 健康・医療戦略室戦略参与、日本遺伝子細胞治療学会理事長、日本脳血管認知症学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長、2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会総合プロデューサーなどを務める。新著に『新型コロナワクチンを打つ前に読む本』など。
ライター:鍼灸師 黒井俊哉
大学院にて慢性頭痛の研究を学んだあと、一般企業に就職し、通所介護事業の新規立ち上げに従事。その後、「認知症の超早期発見と重症化予防プロジェクト」に従事し、認知機能の低下の早期発見について研究を行う。その成果を論文として執筆し、令和2年度日本早期認知症学会論文賞受賞。現在は、高齢者を中心に、介護予防に関する講演活動を実施している。
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