すやすやと眠っている最中に…突然足がつって、目覚めてしまった経験が一度はありませんか?
足のつりの中でも特に多いのが、ふくらはぎ。「こむら返り」という言葉は、古い言葉でふくらはぎのことを指していますが、ふくらはぎがよくつりやすいという方は、生活習慣を見直す必要があります。なぜなら、ふくらはぎの筋肉は心臓から遠く、血流の滞りが起きやすいと言われているからです。
身体の不調のサインでもある足のつりはなぜ起きるのか、またその対処法や予防法を解説します。
目次
・まとめ
どうして足がつるの?
「こむら返り」という言葉は、病名ではありません。
医学用語では「有痛性筋痙攣」や「筋クランプ」などと言いますが、実はなぜ「足のつり」が起こるのかは医学的には完全に解明されているわけではないのです。まだまだ謎が残る「こむら返り」ではありますが、一つ言えることは筋肉やその筋肉に指令を出す神経に対して、栄養や酸素等が十分に行き届かずに筋肉がトラブルを起こしやすくなっている状態であるということ。すなわち、血流が悪い状態ということです。
では、なぜ数多くの筋肉のなかで”ふくらはぎ”の筋肉がつりやすいのでしょうか?その理由としては以下のことが考えられます。
①抗重力筋であるから:
私たちは地球の重力に対して姿勢を保つために、この抗重力筋を使っています。特に、ふくらはぎの筋肉、すなわち下腿三頭筋と呼ばれる筋肉は姿勢を支え、そして歩くときに使う筋肉なので、疲労が蓄積されやすいといわれています。
②心臓から遠いから:
ふくらはぎは心臓より下に位置しているため、血流が滞りやすいです。血流が滞ることによって、冷えや酸素不足、またミネラルの異常をきたすことで、つりやすくなります。また、下に溜まりやすいと言われている冷気が当たりやすいことも冷えの原因になります。
③就寝中の状態から:
寝ているときは手足の体温は下がりやすく、また寝返り等で無意識に寝具の外に足を出してしまうことも。また、仰向けに寝ている際に、掛け布団の重みでつま先が下がりふくらはぎの筋肉が収縮している状態になっていることも、その理由の一つと言われています。
また、1週間に何日も足のつりが続いたり、後ほどお伝えする生活改善を行っても一向に改善しない場合は、もしかしたら病気や飲んでいる薬の影響かもしれません。気になるようであれば、かかりつけ医に相談してみましょう。
筋肉がつっている時、筋肉の中では何が起きているの?
筋肉がつっているとは、センサーの誤作動によってその筋肉が暴走している状態のことです。私たちの身体の筋肉には縮みすぎたり伸びすぎたりして痛まないように、「筋紡錘(きんぼうすい・筋肉の伸びすぎを監視)」と「腱紡錘(けんぼうすい・腱や筋肉の縮みすぎ・伸びすぎを監視)」という2つのセンサーがあります。
筋紡錘は筋肉の伸びが限界にくると「縮め!」という指令を出します。一方、腱にある腱紡錘は、筋肉に一定以上の負荷がかかると筋肉や腱が切れるという危険を察知し、「ゆるめ!」という指示を出します。私たちの筋肉は無意識にこの2つのセンサーが機能することでバランスをとっていますが、このセンサーが誤作動することによって筋肉がつってしまうのです。ただ、このセンサーの働きが悪くなる原因はまだよく分かっていません。
カルシウムやマグネシウムなどの電解質(ミネラル)異常は、そのひとつの原因といわれています。カルシウムやマグネシウムは、筋肉内での神経伝達にとても重要ですので、これらが不足してしまうと、筋肉のトラブルにつながりやすくなります。筋肉という視点で考えると、体内にミネラルが不足している状態と、ミネラルは摂れているが血流が悪く神経までにミネラルがしっかりと届かないことが考えられます。特に、ふくらはぎのような下肢の筋肉は心臓よりも下に位置し血流が悪くなりがちなため、日頃から血流を良くする習慣を身につけることがとても大切です。
ふくらはぎのつりを防ぐために必要なこと
これまで見てきたように、ふくらはぎのつりを防ぐためには、足の血流を良くすることと、ミネラルを不足にならないようにすることが必要です。
①ふくらはぎの筋肉をつけること:
ふくらはぎは「第二の心臓」と言われるほど、全身の血流にとって重要です。ふくらはぎの筋肉は歩行やトレーニングの際に収縮し、心臓に血液を戻すポンプの役割をしています。一般的に、年を重ねると筋肉量は減少していきますので、「こむら返り」と加齢は密接な関係にあります。筋肉量が減少することにより、血流が悪くなり、酸素やミネラルが上手く運ばれず、こむら返りが起きる…。この悪循環を防ぐためにも、スクワットや踵(かかと)上げなどの下肢筋力トレーニングを取り入れましょう。冷えの予防や改善にも繋がります。
②ストレッチ:
セルフケアとしてもうひとつ重要なのがストレッチです。よく「こむら返り」を起こす方の中には、膝裏の筋肉がかたい方がいらっしゃいます。血流が悪いことによって、酸素やミネラルが不足していることに加え疲労物質や老廃物が溜まっていることがそのかたさの原因です。また、かたくなった筋肉を伸ばすことは、センサーである「腱紡錘」に働きかけ、筋肉のトラブルを未然に防ぐ効果があります。
仕事中に座ったまま作業する(デスクワーク)ことが多い…ヒールなど普段履き慣れていない靴で長時間移動をする…など、日常生活では足を酷使し血流が悪くなるこもしばしば。意識的に、就寝前や入浴後にストレッチを行うことがとても重要です。
③ミネラルを含んだ食事を意識する:
こむら返りを防ぐ上で食事の面で重要なキーワードが、ミネラルです。ミネラルとは、マグネシウムやカルシウム、カリウムなどのことを言いますが、筋肉のトラブル回避のためには、マグネシウムとカルシウムのバランス=2:1が重要です。
ここであらためて、それぞれの栄養素の役割をみていきましょう。
◯マグネシウム:
筋肉をゆるめるときに使用されます。マグネシウムは海藻や雑穀などに多く含まれていますが、食の欧米化に伴い現在の日本人にとって不足しがちな栄養素とも言われています。納豆や豆腐などの大豆食品、海藻、ナッツ、玄米などがマグネシウムを多く含む食材です。
◯カルシウム:
筋肉を縮めたり神経伝達をスムーズに行うために必要です。カルシウムも日本人に不足しがちな栄養素と言われていますが、それは食の欧米化や、日本の水(※)に起因します。それを補うために、乳製品、小魚、大豆食品などカルシウムが豊富な食材を積極的に摂るように心がけましょう。
※日本の水は一部の地域を除いてミネラル成分の少ない軟水。
④水分を意識的にとる:
夏場の運動等で汗を多くかく場面では、脱水が起きやすく、結果的に血流も悪くなります。運動をする場合には、水分とミネラル補給を忘れずに行ってください。そして、さらに注意が必要なのは冬の季節です。気温が低いため口の渇きが感じづらく、空気も乾燥しているため、いつの間にか、水分が不足していることも。冬の就寝前にはコップ一杯の水を忘れずに摂りましょう。
まとめ
今回は、足のつりについて、その原因と対策をご紹介しました。
たまに発生する睡眠中の「足のつり」。寝ているとき以外に足をつることがないと、そのことを忘れてしまうこともあるかと思います。しかし、今回ご紹介したように「こむら返り」は血流が滞っているサインです。このサインをそのままにすると、他の不調に繋がるかもしれません。足は私たちが思う以上に酷使をしてしまうものです。
良い血流環境を作り出すためにも、今日からふくらはぎのケアを始めてみましょう。
監修者:医師 野口なつ美
日本医師会認定産業医、日本抗加齢学会評議員、美容皮膚科学会会員。戦争を無くすために外交官になろうと慶應義塾大学総合政策学部に入学。争いを生んでしまう心に関心を持ち、卒業後は東京医科歯科大学医学部へ。東京医科歯科大学にて研修、皮膚科勤務を経て、都内保健所勤務、美容皮膚科、栄養療法、産業医経験も含め、幅広く予防医学、美容医療に携わり、根本的な心身の健康と健全な美を追及している。
ライター:鍼灸師 黒井俊哉
大学院にて慢性頭痛の研究を学んだあと、一般企業に就職し、通所介護事業の新規立ち上げに従事。その後、「認知症の超早期発見と重症化予防プロジェクト」に従事し、認知機能の低下の早期発見について研究を行う。その成果を論文として執筆し、令和2年度日本早期認知症学会論文賞受賞。現在は、高齢者を中心に、介護予防に関する講演活動を実施している。
Comments