
多くが一度は経験する頭痛。風邪や寝過ぎなどで一時的に起きるものもあれば、痛みや頭が重だるい感じが数日続くことも…。
頭痛が原因で「仕事に集中できない」、「家事ができない」、「趣味が楽しめない」など日常生活に支障を抱えている方も多いのが現状です。そのような日常生活の敵である頭痛を予防する秘訣は、自律神経のバランスを整え、血流を良くすることです。
頭痛と血流の関係について解説していきます。
目次
・まとめ
頭痛の種類と原因

日本頭痛学会によると、頭痛とは頭部の一部あるいは全体の痛みの総称であり、後頭部と首(後頚部)の境界、眼の奧の痛みも頭痛として扱うとされています。
また、慢性的に頭痛発作を繰り返す場合には病名として扱い「頭痛症」とする、と説明されています。
頭痛は、脳腫瘍やクモ膜下出血、脳卒中など脳や頭部の病気の症状として出てくる頭痛(二次性頭痛)と、他に病気が隠れている訳でもなく繰り返し起きる頭痛(一次性頭痛)の種類に分けることができます。脳や頭の病気が原因で起きる二次性頭痛は注意が必要で、時には命に関わる場合があります。急に起きた頭痛の他に、「今までに経験したことのないひどい痛み」や「手足の麻痺やしびれを伴う」、「ひどい嘔吐や熱がある」などの症状がある場合は、脳神経外科または神経内科などの専門医に受診して、正確な診断と治療を受けましょう。
今回は脳や頭に明らかな異変がなく繰り返して同じような痛みが続く、一次性頭痛と血流の関係についてご紹介していきます。
一次性頭痛とは

一次性頭痛の代表的なものとして、「片頭痛(へんずつう)」と「緊張型頭痛」があります。
片頭痛は血管が拡張することによって、その周りに存在する三叉神経という神経が刺激を受けて痛みが生じると言われています。その特徴は、「ズキンズキンと脈を打つような」痛みであり、嘔吐や吐き気を伴うことです。また、神経が興奮しているため、光や音、匂いなどに敏感になることも多いと言われています。坂井らの調査1)では、日本の片頭痛有病率は8.4%と言われています。更に、近年片頭痛は痛みにより日常生活や社会活動にも支障を来し、生活の質や労働生産性を落とす病気としても注目を浴びており、片頭痛の予防の重要性が言われています。
一方、緊張型頭痛は後頚部から首筋の筋肉の緊張によって、重苦しい感じや締め付けられているような圧迫感を感じる頭痛です。緊張型頭痛は無理な姿勢で長時間作業したりすることによって、筋肉への血流が悪くなり、筋肉において疲労物質がたまった結果、そのまわりの神経が圧迫されておこると言われています。また、精神的ストレスが長く続くことによって、脳の痛みを調整する箇所の不具合によって起きることもあります。片頭痛のような嘔吐や吐き気、外部などの刺激に敏感になったりといった症状はないため、頭・首まわりの筋肉の緊張を緩和することがとても重要です。
頭痛が起きているときの血管の状態をみると、片頭痛は血管が拡張していますが、緊張型頭痛の場合は血管が収縮しています。従って、片頭痛の場合は頭痛が起きているときは安静にして冷やした方が良いのですが、緊張型頭痛の場合は凝っている筋肉を温めて血流を良くすることが重要です。また、片頭痛は一般的にストレスから解放された「ホッとした」時に起こりやすいのに対して、緊張型頭痛はストレスを受けている時に筋の緊張が起こりやすいと言われています。
長く続く頭痛で悩んでいる方は、自分の頭痛がどのタイプなのかを専門医の先生に診てもらうことが改善への第一歩といえます。
片頭痛の予防法

日常生活や社会活動に支障が出てしまうほどの痛みが出る片頭痛を予防していくために必要な知識をご紹介します。
①天気
季節の変わり目や台風接近による気圧の変化によって、片頭痛が起きやすくなる方が多くいらっしゃいます。テレビなどでも「気象病」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。それでは、なぜ気候の変化によって頭痛が起きやすくなるのでしょうか?その原因は自律神経の不調にあります。私たちは、暑さや寒さといった気候の変化に、交感神経・副交感神経の自律神経がバランスよく働くことによって、その気候の変化に順応しています。しかしながら、ストレスや不規則な生活で自律神経の働きが弱くなると、この気候の変化に自律神経がついていけなくなります。
自律神経は、身体の至るところの血管の伸び縮みを調整しているため、その調整がうまくいかずに、例えば片頭痛の場合は血管が拡張してしまい、神経を圧迫することで頭痛が起きると言われています。また、片頭痛は女性の方に多い傾向にありますが、これは女性ホルモンの変化に自律神経も影響を受けていることが原因と言われています。自律神経をバランスの良い状態に保つことが片頭痛の予防に繋がります。
②筋肉のコリ
日本神経学会など関連学会が連名で発刊している頭痛診療ガイドライン2021 2)では、非薬物療法として鍼灸療法が推奨されています。鍼灸治療はその方の体質に合わせた治療を行うことで各種症状を緩和させます。その体質をみる方法の一つとして、筋肉のコリの状況を確認する方法があります。片頭痛患者の多くに首周りの筋肉に緊張が認められます。鍼灸治療によってこの筋緊張を緩和することで、頭痛の強さと頻度が減少することが研究からわかっています。頭・首まわりの筋肉の血流を常日頃から良くしておくことが、片頭痛予防に繋がります。
まとめ

日常生活の支障が出てしまうことも多い頭痛を予防するためには、自律神経をバランス良く保つこと、そして筋肉の緊張を常日頃から和らげることが重要です。この2つは一見すると繋がりがないように見えますが、両方の共通点としては「血流」があります。血流を良くすることは自律神経のバランスを整えることになります。また、自律神経のバランスが良くなることで血流が安定し、筋肉の緊張も和らぎます。
血流を良くすることで、辛い痛みを遠ざけましょう。
参考文献)
1)Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997; 17(1):15-22.
2)日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会. 頭痛の診療ガイドライン2021. 東京. 医学書院 2021.
監修者:森下竜一
昭和62年大阪大学医学部卒業。米国スタンフォード大学循環器科研究員・客員講師、大阪大学助教授を経て、平成15年より大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授(現職)。内閣府 健康・医療戦略室戦略参与、日本遺伝子細胞治療学会理事長、日本脳血管認知症学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長、2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会総合プロデューサーなどを務める。新著に『新型コロナワクチンを打つ前に読む本』など。
ライター:鍼灸師 黒井俊哉
大学院にて慢性頭痛の研究を学んだあと、一般企業に就職し、通所介護事業の新規立ち上げに従事。その後、「認知症の超早期発見と重症化予防プロジェクト」に従事し、認知機能の低下の早期発見について研究を行う。その成果を論文として執筆し、令和2年度日本早期認知症学会論文賞受賞。現在は、高齢者を中心に、介護予防に関する講演活動を実施している。
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